黒柿(くろがき)は柿の木の芯材に黒色物質が沈着し黒い模様にみえる木材である。
一般に、柿材は製材すると乳白色から淡黄色を呈する木材であり、木目も比較的均質である。しかし、ごく限られた個体において、幹の内部に濃色の変化が生じ、黒色あるいは黒褐色の縞状模様を示す場合がある。一般に「黒柿」と呼ばれる材は、このような異常な着色を示した柿材を指す通称である。
黒柿が確認されるのは、長期間生育した柿の古木がほとんどであり、若木から得られることは極めて稀である。林業や木工の分野では、発生頻度は非常に低く、実際に材として利用可能な状態で得られる例はごく限られるとされている。この希少性により、黒柿は古くから高級材として扱われてきた。
黒柿材は伐採後すぐに加工できるものではない。柿材自体が比重の高い硬質材であるうえ、黒柿の場合は含水率が高く、内部応力も不均一であることが多い。そのため、割れや変形を防ぐためには、長期間にわたる自然乾燥や調湿工程が不可欠であり、加工に至るまでに相当の年月を要する。そこで乾燥と安定化を経てはじめて、器物材や工芸材としての利用が可能となる。
黒柿に見られる黒色部の成因については、従来は柿渋の主成分であるタンニンの変質・沈着が関与していると考えられてきた。近年では、材料分析や顕微観察に基づく研究により、黒色部には有機物や微生物の存在が顕著であること、また生育環境となった土壌中にも微生物や多様な元素が関与していた可能性が指摘されている。
これらの研究では、柿の根や幹に取り込まれたカルシウム、リン、硫黄、塩素などの元素が、微生物活動と関係しながら生体鉱物として沈着し、時間の経過とともに材の色調変化に影響を与えた可能性が示唆されている。こうした過程を経て形成された黒色部は、単なる色素沈着とは異なる複合的な生成過程を持つものと考えられている。
黒柿の意匠的特徴としては、幹の辺材部に現れる黒色の縞模様が挙げられる。この模様は「孔雀杢」とも称され、自然が生み出した独特の景観として、木工・漆工分野で高く評価されてきた。模様の現れ方には個体差が大きく、同一の意匠が再現できない点も、黒柿の価値を高める要因となっている。
歴史的には、黒柿は日本の工芸文化とも深く関わってきた。正倉院宝物の中には、黒柿材とみられる木工品が伝えられており、その希少性と美的価値が早くから認識されていたことがうかがえる。また、実際の黒柿が入手困難であった場合には、木地に着色や模様を施して、黒柿の風合いを模して表現した「仮黒柿」と呼ばれる技法も用いられた。
このように黒柿は、自然条件、生物学的要因、長い時間の蓄積によって偶発的に生み出された素材であり、単なる木材の一種を超えて、材料学的・文化史的価値を併せ持つ存在といえる。現代においても、黒柿は入手困難な希少材として扱われ、その独自の表情と背景を含めて評価され続けている。
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